テキスト版 N母 H271224 訟訴状20151224[補正済] 中根母訴訟 三木優子弁護士

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N母 平成27年(ワ)第36807号 損害賠償請求事件 民事第4部ろB係

東京地方裁判所 #渡辺力裁判官 #細田良一弁護士 #中根子訴訟

 

N母 平成29年(ネ)第3587号 損害賠償請求控訴事件

東京高等裁判所 第14民事部ロ(ニ)B係

#後藤博裁判官 #小川雅敏裁判官 #大須賀寛之裁判官 #冨盛秀樹書記官

 

N母 上告提起 平成30年(オ)第540号 

#山崎敏最高裁判事 #岡部喜代子最高裁判事 #戸倉三郎最高裁判事 #林景一最高裁判事 #宮崎裕子最高裁判事  #森芳郎最高裁判所書記官

 

*****************

訴    状

平成27年12月24日

東京地方裁判所 民事部 御中

原告訴訟代理人弁護士   綱 取  孝 治 

 

       同   弁護士   三 木  優 子 

 

同   弁護士   辛 嶋    真 

 

〒343-0844   埼玉県越谷市大間野町○-○-○

原    告       ○○○

〒105-0001   東京都港区虎ノ門1丁目2番29号虎ノ門産業ビル3階

綱取孝治法律事務所(送達場所)

電 話   03-3591-0291

FAX   03-3502-8770

上記訴訟代理人弁護士    綱 取  孝 治

       同   弁護士    三 木  優 子

〒133-0051

東京都江戸川区北小岩七丁目○○-○○

被    告   中 根  ○ 子    

損害賠償請求事件

訴訟物の価額   2、000、000円

貼用印紙額       15、000円

 

第1 請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金2、000、000円及びこれに対する訴状の送達の日の翌日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え

2 訴訟費用は被告の負担とする

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第2 請求の原因

1 当事者

(1) 原告は、昭和51年9月1日、東京都立学校教育職員として採用され、特別支援学校で計21年、普通学校で計10年勤務し、平成20年4月1日以降、東京都立葛飾特別支援学校(以下、「葛飾特別支援学校」という。)に勤務していたが、平成25年3月31日に退職した。本件が起きた当時、原告は同校での勤務が5年目であった。

(2) 被告は、平成24年度に葛飾特別支援学校1年生に入学した障がいのある男子生徒(以下「N君」という。)の母親である。

(3) 原告と被告の接点

原告は平成24年度に葛飾特別支援学校1年生にとして入学したN君の在籍するクラスの副担任であった。N君の在籍するクラスは生徒数が7名で、主担任は女性の千葉教諭、副担任が原告であった。N君が着替えやトイレの介助を要したことから男性である原告が、事実上N君の担当となることになった。N君は、入学当時愛の手帳の認定で2度(重度)の知的障がいを持つ生徒であり、在籍クラスは重度重複学級(障がいが重度であるか重複しており教員が個別に指導することが原則となるクラス・職員配置の都合からも在籍人数に制限がある)ではなかったが、学習班は1班という個別指導を前提とするクラスで、重度重複学級の生徒と同じ授業を受けている生徒だった。

 

 

2 事案の概要

本件は、障がいを持つ子供が通う特別支援学校において、自身の子供への一人通学の実施を要望する被告が、当該子供の行動の障がいの内容すなわち判断力やコミュニケーション力及び行動の傾向から、葛飾特別支援学校の一人通学指導マニュアルに拠り、一人通学が容易に実現できないと判断した原告に対し、学校長や副校長(以下「管理職ら」という。)に原告の能力が低いと訴え原告が学校からいなくなるように等再三要望した上、日中の学校に予告なく現れて原告の様子を監視し、その行動を逐一管理職らに報告する等した結果、原告が家に帰って眠るときにも頭の中に被告の顔がはりついたように浮かび、常に監視されている感じがして、ストレスから体調が悪化し夜眠れなくなったりお腹を下したりするなど、精神的に追い詰められた結果、心身の不調から休職等を余儀なくされ、満足に職務に戻れないまま失意のうちに退職したものであり、被告の要望が内容及び頻度と態様において受忍限度を超えた違法な行為であることから、不法行為民法703条)に基づき精神的損害の賠償を求める事件である。

本件で原告は、モンスターペアレンツである被告に対し、管理職らまでもが頻回で強い保護者の要求に折れ、なし崩しに被告の要望に沿う判断をし、管理職らにより被告の子供の通信簿から名前を削除されたり、他の教師には行われていない課題作成や管理職との授業観察・面談を繰り返すことにより一人通学指導の開始を強要され、現場の担任である原告が無理な課題を突きつけられて心身を故障したのであり、保護者の過剰な要望に対する学校(管理職ら)の在り方と現場の担任の在り方を、最早学校の中では解決できなかった結果、訴訟の場で問うことを趣旨としている。

3 不法行為責任

(1)違法行為

ア 受忍限度を超える要望の内容・頻度・態様

被告は、現実の子供の障がいの内容に沿った教育内容ではない指導を学校側に強く求めてきた。被告は子供の障がいの内容を実際にはよく知りながら心理的には障がいがあることを容認し難い様子であったことと、被告は子供の進路を作業所(就労施設)に進ませたいと考えていたことが背景にあったと見られる。本来、学校の担任と生徒の保護者は、信頼関係を構築し、学校という集団教育の中でより良い教育を実現するために連携していくべき関係にあるが、被告は自己のやり方の再現を強く求めてこれが再現されていないのではないかという不信感を常に持っている様子も見られた。その中で、被告は、自分の子供に一人通学指導を開始して欲しいという要望を行い(一人通学ができることは、作業所での就労の条件となると理解されている)原告がこれを開始しなかったことに端を発し、原告を徹底的に学校から排除するための活動を行った。

このような被告の行為は、本来保護者が学校に要望をすること自体が違法となるものではないものの、その内容及び頻度、態様が原告に損害を与え原告の受忍限度を超える場合においてはなお、違法性を帯びるものである。

イ 被告の行為

被告は、障がいのある子供が中学部から高校部に当たる葛飾特別支援学校へ進学するに当たり、入学相談時より担任教師との綿密なコミュニケーションを望み(ⅰ被告からの綿密なコミュニケーションの希望)、入学式当日からレポート用紙や連絡帳の裏面を使用して担任宛の連絡を開始した(ⅱ被告からの具体的な要望は入学式翌日から開始された)。原告は、被告の便宜を図るため連絡帳の書式の変更を提案し以後保護者記入欄のある連絡帳の書式を使用することとした(ⅲ連絡帳の書式変更)。被告は自己のやり方であるという書籍を担任である原告の机の上に置き、読んでほしいとのことだったが、原告は多忙のため読めないまま同書籍を返還することになった(ⅳ本を読むように渡された)。

その後、子供の指導に関して概ね時系列に沿って、ⅴ水遊び・砂遊びをやめさせてほしい旨の要望、ⅵ体育祭の種目変更についての要望、ⅶ朝の活動についての要望、ⅷハンカチを噛むことをやめさせてほしい旨の要望、ⅸ一人通学指導を開始してほしいとの要望、ⅹ学校でのNの座席変更についての要望を連絡帳や手紙、朝や帰りの時に直接立ち話等で担任である原告及び相担任の千葉教諭に要望した他、担任らが対応できないと回答したものについては校長室へ行くか架電して直接校長及び副校長らに要望を行った。

特に、ⅸ一人通学指導を開始してほしいとの要望に対し、原告及び主担任の千葉教諭の判断では、葛飾特別支援学校の一人通学指導マニュアル(甲1)に拠り、生徒の発達段階から、被告が希望する内容での一人通学が完成する見込みは低く、担任らが事実上付き添いをして指導する段階が長期間に亘ることが予想されることもあって、指導対象前の段階であると判断したことを受けて、被告は校長や副校長に直接一人通学指導の開始を要望しに行くとともに、原告が主に生徒の指導を担当していたことを受け、原告が教員として能力が低く、自分の子供の指導から外して欲しい、学級から居なくなって欲しい、自分の子供の通信簿から名前を削除してほしい、学校からいなくなるようにしてほしい旨の要望を繰り返し行い、その態様は予告なく学校に現れて教室の外から原告の授業等を観察し気になる点を見つけては校長室へ報告しに行くという、原告にとっては監視そのものを伴うものだった(ⅺ原告を学校から排除するための要望)。

以下概ね時系列に沿った要望の流れとして、ⅰ乃至ⅺについて、詳述する。

 

ⅰ N君の母親からの綿密なコミュニケーションの希望

  下記あ)のとおり、被告は入学前から担任との綿密なコミュニケーションを希望し、自己の意図を担任に伝える姿勢が強かった。

入学式初日から被告がA4の用紙で担任教諭宛に綿密なコミュニケーションを望む趣旨の手紙を作成し、原告ら担任に渡したので、原告も同用紙に返事を記載し、「被告にN君のことを教えてもらい、ひとつひとつ対応を考えたい」旨伝えている。

このようにして入学当初より、被告の要望に応じる形で、担任と被告の間での積極的なコミュニケーションが開始された。重度の障がいがあり、学習班は1班で個別指導を受けており、重度・重複学級(障がいが重度か重複している生徒の学級)の生徒と同等の指導内容を必要とするN君については、原告としても被告と連絡を密にとって、N君自身のことを把握する必要があると考えていた。

あ) 入学前相談(甲2)

 「管理職面接 〈保護者の様子〉 学校に対しては、本人がコミュニケーションが難しいので、担任との関わりを強く求めている様子が見られた。」

 

ⅱ 被告からの具体的な要望は入学式翌日から開始された

被告から要望が有った場合は、翌日、朝会にて全職員に連絡し、学習1班の教諭には、個別での確認も行っていた。原告ら担任は、被告の要望に可能な限り、要望が増える中でも漏れが無いよう出来る限り対応してきた。

  原告は、ノート用の用紙にて、N君の様子や、書類提出をN君自身にさせるようにしてほしい旨の要望をしその促し方として声かけの内容を具体的に記載している。これに対し、原告はN君の学校での様子を具体的に記入し、被告に伝えた。

 

ⅲ 連絡帳の書式変更

被告は、入学初日より、本件学校で通常用いている連絡帳の欄外やA4用紙1枚程度の別紙等を用いて、毎日記入をしてきていた。本件学校で用いている連絡帳は、原則として「生徒が記入するための書式」となっており、保護者の記入欄が無いものだった。そこで原告の考えで被告に提案し、中学時代に使っていたという連絡帳の書式を用いることに変更した。被告は中学時代に使用していた連絡帳の書式を持参し、原告が学校で書式を元にパソコンで作成して以後連絡帳として用いることとなった。

 

ⅳ 本を読むように机上に置かれた

4月中のある日の朝、原告が教室に行くと、原告の机の上に本が置いてあった。先に来ていた千葉教諭に「先生の本ですか」と聞くと、千葉教諭は被告が置いていったと答えた。原告が千葉教諭に、「千葉先生、お読みになりますか」と聞くと、千葉教諭が「いえ、私は忙しくて」と断ったため、原告が本を預かった。原告は、多忙な業務のため平日には読めないので5月の連休中に読もうと考えていたが、結局連休中も本を読む時間を工面できなかった。この先預かっていても夏休みまで時間が取れないため、紛失しないようにと被告に本を返却した。

本来専門家である担任に、自己が推薦する図書を読ませて自己のやり方を伝え実行させようとする被告の在り方は、一般的な担任と保護者のコミュニケーションの枠を超えて、担任が自己のやり方に合わせることを要望していることの如実な顕れである。

 

ⅴ 水遊び・砂遊びについての要望

  被告は、N君の水遊びや砂遊びをなるべくやめさせたいと要望していた。連絡帳への被告の記載にも、N君の砂遊び等を気にしている記載が多数あった。原告は、完全にやめさせることが難しいことを被告に伝えた上で、下記あ)のとおり、できる限りN君に対し砂遊び等をしないよう指導していた。

あ)5月21日の週・週案(甲3の8、原告記入)

「N君は、グランドに行くと走ってグランドの砂遊びになる。保護者が気にしているので止める。水遊び、砂遊びの感覚遊びは、止めなさいで止めるから良い方だ。」

 

ⅵ 体育祭の種目についての要望

   被告の要望によって、N君の参加する種目が変更になったことがあった。そのやりとりは、連絡帳に記載がある。

 

ⅶ 朝の活動についての要望

   被告は、N君が提出物等を自分で出すことができるかどうかに強い関心を持っていた。

ⅱに記載のとおり、入学式の翌日から、ノート用の用紙に、N君の様子の他に、書類提出をN君自身にさせるようその促し方等を含めた要望が記入されていた。

4月23日には朝の教室での様子を突然見学に来ることもあった。

保護者授業参観後の6月5日、被告から、N君が教室に登校してから担任が教室に来るまでの約15分間の時間、他の生徒が係活動や着替えをしているがN君は介助なく活動することが難しいため座席に座っている状態であることが不満であるとの要望があった。これを受け、当初原告は飯田学年主任からN君のために教員会の朝会に出なくて良い(その間N君の指導をするように)と言われた。しかし、新学期に提出物の期限や様々な情報交換を行う朝会(全体会→学年会→担任会の順に行う)にずっと出ないということはその情報を別で得なければ業務に支障が生じるが、別の機会に情報をリカバーすることが困難であったので、原告はN君の登校を15分遅らせる提案をした。これは、以前に担当した重度の障がいを持つ生徒が、担任が教室に来るタイミングに合わせて登校していたので、その例に倣った提案であった。その後N君は、朝15分ほど遅らせて登校するようになった。

さらに6月19日、被告がN君の朝の指導を行うと宣言し,原告の指導が拒否された。原告は、担任会で千葉教諭から概略を聞き、朝の流れを変更するという提案を受け、被告がN君に付きそうという内容を了解した。

6月25日ころには、N君にひとりで係活動を行わせたいと被告が強く要望することを受けて、担任会で検討し、N君の係を出席簿を職員室へ運ぶ係から保健カードを保健室の前まで運ぶ係に変更した。

 

ⅷ ハンカチをかむことについての要望

   被告は、1度要望した内容については、高い関心をもって徹底的にその内容を達成しようとし、連日担任へも連絡をしてくる傾向があったが、特にN君がハンカチをかまないようにしたいとの要望については、連絡帳やノート用の用紙での手紙によって被告が自己の感情の起伏を「はじを食いちぎったハンカチが2枚出て来て完全にぶち切れました。」等と報告した上、被告自身が不意打ちで学校に来てN君を注意すると連絡してくる他、ハンカチをかまないようN君に伝えて欲しい旨同学級の他の生徒に頼んでいることを担任らに伝えてきており、手段を問わないやり方であった。

   上記のような被告の姿勢は、N君自身にも安定した学校生活が乱される可能性があるだけでなく、他の生徒への影響に対する考慮もなく、ただN君がハンカチをかまないという結果を早急に徹底的に実現することだけが優先されている行動基準と見られた。これは、被告が実現したいN君への指導内容がある場合に、それが実現できないと落胆や激昂に陥り、周囲やN君自身の課程を顧みないで行動する被告の傾向の現れと評価できる。

   原告の指導との関係では、原告は学級担任であり、いわゆる授業中は一緒にいることが無いためN君のハンカチに関する指導は授業を担任する教員(学習1班の教員)に申し送りをして対応していた。

  あ) 6月11日の週・週案(甲3の12、原告記入) 

N君の母からハンカチのことで注文があった。たまに見たが、すぐ止めていた。ほとんど一緒にいることがないので、他の授業の先生にお願いした。」

 

ⅸ 一人通学についての要望

被告は、5月10日の家庭訪問で担任である千葉教諭及び原告に対し「そろそろ一人通学をはじめたい」と要望した(後述い))。帰り道で千葉教諭と原告が相談したときには、現状のN君の発達段階からすれば、一人通学を始めるのは早すぎるという結論を確認した。

しかし、被告は翌週の5月14日月曜に再度「一人歩き」を開始したいと要望し、翌日5月15日原告が一人歩きには不安があることを伝えると被告は自分が後追いをする形での自主練習を開始すると伝えて来た。

さらに翌5月16日には、一人歩きは時期尚早であることを伝えるため千葉教諭が連絡帳に左右の安全確認ができてから「ゆっくり取り組めるとよい」と記載したが、それを受けても被告はヘルパーや自身による後追いの自主練習を続けることを連絡してきた。

その後被告は、6月6日、6月10日に一人通学をやることを要望する手紙を書いている。

なお、被告の手紙については原告宛でないものについては当時原告が目にすることはなかった。夏期休暇頃になって原告は自分に起こっていることを知るためN君の資料をコピーしたときに、初めて手にしたが、業務と体調不良の中で格別に目を通すことは無く、管理職らとの面談や千葉教諭との会話で内容を伺い知るのみであった。

6月6日の朝、原告は更衣室前にて口頭で、被告に「体制ができていない、個人的に2~3週間ならできるが、それ以上は無理です、N君の場合、見通しがつかない。」と伝えた。するとその後、被告は校長室へ要望をしにいったらしく、放課後に管理職らから原告が呼ばれて校長室へ行くと、校長から「交通事故にあってもいいからN君の一人通学をさせたいというN君の母親に対し、お母さんがそう言っても、事故は相手もあることだからそうはいかない、と言って説得した。どうだろうか。」と意見を求められたので、原告は「その通りだと思う」と答えていた。このときは、管理職らも被告に一人通学指導を始めることはできないという立場だった。

しかし、6月11日から被告は、一部の区間を後追いなしで一人歩きさせており、その後もN君自身に危険が及ぶトラブルが複数連絡帳にて報告されている。

原告は6月15日に再度管理職らから呼ばれ、校長から「一人通学の指導、一歩進めたい」と切り出された。理由として、「中学部の時は、一人通学ができていた」と説明を受けた。さらに管理職らからは「被告から本を机の上においたが、読まない。私と合わないんじゃないか。担任を変えてほしいと要望された」とも言われた。そして、管理職らからN君の一人通学のための指導計画書を作るよう指示された。これを受け、その頃、被告に「一人通学のお手伝いをすることになりそうです」と伝えると、被告は嬉しそうに「ありがとうございます」と言って、N君の頭に手を添えてお辞儀をさせていた。しかし、原告は、管理職から被告から担任を変えて欲しいという要望があると伝え聞いていたことから、原則として被告への対応は千葉教諭に任せて、自分は後方になるようにしていた。

6月19日ころの原告と被告のやりとりについては、一人通学指導をする場合には勤務時間外になり事故があった場合の責任が問題となるとのやりとりがあった。原告自身の事情としては、夏の暑い頃になったら認知症の母親が熱中症になるのを予防するため、短時間の休暇等を利用し早めに帰宅して冷房や換気を行う必要があった。もしこの段階で開始すると、自分が対応できなくなればゆくゆく主担任である千葉教諭1人に指導を押しつけることにもなり得、千葉教諭も育休明けで忙しいことを知っていたため安易に開始することはできないと考えていた。

6月20日ころ、被告から一人通学指導が勤務時間外になること等について質問があり、その際被告からは「組合としてはそうでしょうが」との発言もあった。

6月21日朝、原告は教室で被告から「私からのラブレターです」と言われて手紙を渡された。そこで原告は勤務時間等についての質問には、その日の内に管理職に許可をもらって勤務時間表を被告に手渡した。また、紙に書いて返事が欲しいという趣旨を、「口頭ではなく紙に書く」という趣旨と理解し、6月21日連絡帳に回答を記載した。

しかし、翌6月22日被告は「連絡帳ではなく別紙手紙に書いて欲しい」と強く要求しその趣旨の手紙を持参した。原告は、連絡帳に既に記載してしまったものを書き直す必要性があるのか疑問に思うとともに、被告があまりにも別紙での手紙を強く要求するために、被告は「連絡帳はN君の様子だけにしてほしい」という理由を述べていたがそれが真の理由だとは到底思えなかった。原告は、「もしかしたら、Nさんは裁判をお考えのようなので、連絡帳にしたい。連絡帳なら、後でもらっていないと言う事にならない」と書き直しを断ったところ、被告は「裁判は考えていない」と否定し、「別紙で貰えるように校長にお願いに行きます」と言って怒ってその場から立ち去った。

被告は校長室へ行き、管理職らに対し原告に手紙を書かせるよう要求したものと見られ、同日中に管理職らから原告が呼ばれ面談を行った。その際校長は、「N君の母親は校長室に朝・昼と来て、間に電話も来た」とかなり迷惑そうな様子で言っていた。副校長は「この時期に書面で遣り取りすることはエスカレートする」と言って、別紙で返事をしないよう原告に伝えた。またこのとき、管理職らからN君の指導をしなくて良いと言われ、以後原告がN君の指導をすることはなく、連絡帳を見ることも無かった。同日以後は、N君の指導を飯田学年主任が引き継いで行っていたようだった。

書き直しを断った翌日頃の朝、原告が被告に対し「感情的になり申し訳なかった」と謝罪したところ、被告は「もう遅いよ。最初からそうすればこんな大事にしなかったのに。」という趣旨の発言をした。

あ) 5月7日の週・週案(甲3の6、原告記入)

「N君の母が、5月分の定期を買ってしまったと話していた。よく分からない」

い) 5月10日(木)家庭訪問

  原告の記憶では、家庭訪問時に被告よりそろそろ一人通学を始めたいとの要望があった。

 

ⅹ 学校でのNの座席変更についての要望

被告は、N君の教室での座席と給食時の座席を変更してほしいと千葉教諭に要望してきた。原告はその要望の理由を考えるに原告のそばから離し、教室外から見える位置したいとのことだったと考えられた。要望があった後、7月3日の教員らの学年会で千葉教諭が報告し「学級経営の混乱が危惧される」との発言を添えて教員らに相談した。その際には飯田学年主任も「学校経営への要望も細かくなっている。(被告も)感情的になっているようだ。」と発言していた(甲5、13枚目、原告メモ)。直前に席替えがあったばかりで、再度席替えをすることは他の生徒が疑問を持つことが避けられず悪影響が考えられることから、千葉教諭が連絡帳で被告に席替えはしないことを連絡したが、原告の記憶では結局原告から遠くなるようにする形でN君の席替えが行われたものである。

 

ⅺ 原告を学校から排除するための要望

 原告は、平成24年6月ころから7月ころにかけて、被告の直接の要望を受けた学校長及び副校長らから、間接的に被告の要望の内容を聞いていた。しかし、管理職らを通してのみしか伝えられないため、被告が実際にどのような要望を行ったかの正確な内容を原告が知ることは出来ずに今日に至っている。

学校長は、被告との面談時に自身の手帳にメモを作成しており、それを基に原告に話をしていたのであるから、学校長の手帳の内容を明らかにする必要がある。また、学校長らは被告から受け取った手紙を保管しているのだから、この内容も明らかにされなくてはならない。原告は、平成24年当時から被告の要望内容を明らかにするように求めてきたが、今日に至るまで学校長の手帳と被告から管理職宛の手紙は開示されることが無かった。

   そこで下記に原告のメモである甲5を中心に、被告の要望が分かる部分をまとめることとする。  

   甲5は、原告が平成24年6月から7月ころにまとめた原告自身のメモである。日付けはその出来事があった日であることも、そのメモを作成した日であることもあり一貫していない。当時の原告は、家に帰っても目をつぶると被告の顔が脳裏に浮かび、食べてもすぐに下痢をしてしまう等体調が悪化して、自分に何が起こっているのか処理出来ない状況だったため、気がついたことや管理職・N君の母親との遣り取りを取捨選択せずひたすらメモに起こしていた。

あ) 6月6日 管理職らと面談

   管理職から呼出があり、原告が校長室へ行くと、校長から「交通事故にあってもいいからN君の一人通学をさせたいというN君の母親に対し、お母さんがそう言っても、事故は相手もあることだからそうはいかない、と言って説得した。どうだろうか。」と意見を求められたので、原告は「その通りだと思う」と答えていた。このときは、管理職らもN君の母親に一人通学指導を始めることはできないという立場だった。

い) 6月15日 管理職らと面談 指導計画の作成を命じられる

   原告が管理職らに呼ばれて校長室へ行くと、校長は原告にN君の一人通学指導計画書の作成を命じた。理由として、N君は中学部の時には一人通学ができていたと説明があった。被告の強い要望を受け、管理職らは6日時点では一人通学指導をしないと考えていたにもかかわらず、担任らに何らの相談も無く一人通学指導を開始すると伝えたようだった。(甲5、3枚目、原告メモ)

う) 16日か17日 確認書を作成して押印を求める

  原告は、指導計画を作ることになったため、管理職らに勤務時間外になること及びその際に事故が起こった場合には学校が責任を取ることを記載した『確認書』を作成して、副校長に管理職らの印鑑が欲しいと伝え渡した。

え) 6月18日 確認書について経過質問 中学時代の指導書入手を要望

   原告は、副校長と話をした際、副校長に渡した確認書について、質問をし、これに対し校長に渡してあるとの回答を得た。また副校長に対しN君の中学校時代の通学指導計画が欲しいと要望した。他校への依頼は管理職を通すとスムーズに行くため、迅速な入手が可能となると考えてのことだった。(甲5、5枚目、原告メモ)

お) 6月19日ころ? 管理職らと面談 確認書の押印を拒否される

  原告が管理職らに押印を求めた確認書は、6月15日の面談の内容を記載して確認するという内容だったが、記載した面談の時間が違うという理由で校長から押印を拒否された。その場で容易に訂正できる内容であったのに、はっきりと拒否されたことから、原告は管理職らが書面で責任の所在を明確にするつもりが無いのだと受け止めた。副校長が裁判では念書など意味が無いという趣旨の発言をしたことからも、時間が間違っていることは真の理由ではないことがわかった。(甲5、4枚目、原告メモ)

か) 6月21日 管理職らと面談 N君の指導を離れるように指示される

  6月20日ころの被告からの質問についてのやり取りに関し、被告が原告に手紙で回答をさせる旨管理職らに要望したことを受けて、原告が管理職らに呼び出された。管理職らは、被告が一日に朝、昼と校長室に来て、間に電話もしてきていることから被告の要望の仕方がかなり強引であることは体感していた。そして、管理職らは原告に対し、被告の要望を受け容れる形で「(N君と原告が)二人になる場面を作らない」とN君の指導から離れるように指示した。原告の方も、被告に何をされるかわからないと不安に思っており『私も心配なので(今後予定されている上野動物園への校外学習時は:原告代理人補足)休暇をとろうかと考えている』と述べたが、『他の子の指導もあるので休まないでほしい』と休暇をとらないようにとの発言をした。遅くともこの日の段階では、副校長が「お互い疑心暗鬼になっている」と発言しているとおり、原告が被告に何をされるかわからないと不安に考えていることを管理職らも十分に把握していた。しかし、原告の立場を守ろうという姿勢は管理職らに全く見られなかった。(甲5、8枚め、9枚め、原告メモ)

き) 7月4日 10:25 管理職らと面談 授業観察を行うと言われる

 7月2日に被告が管理職宛の手紙を持ってきたことを受け、校長室で原告と管理職らとの面談があった。被告は、①管理職に原告の研修の内容を開示するよう求め、②原告が学校からいなくなるようにしてほしいと要求し、③9月の宿泊にも引率させないよう要望し、④Nの写真を原告が撮ることもやめてほしいと要望したようだった。これらの要望と合わせて、被告が教育委員会、学校問題解決サポートセンターに相談することを伝えてきたことを受け、校長は、『校長として、授業を直接見て指導に行きます』『宿泊は副校長が引率するので、お母さんの心配がないよう、管理指導します。』『教育委員会、サポートセンターは、いったん預かる』と伝えて相談に行かないよう被告に申し入れたことがうかがえた。

また被告が持ってきた手紙の内容では、原告が朝学活を進めているときの生徒とのやりとりで不適切な点があったと報告されているようだった。その内容は、それまで原告の受け持つ学級では、朝学活を主に相担任の千葉教諭が進めてきたが、ある日原告が朝学活を担当することになったときのことだった。生徒のひとりが「何で*(千葉)先生じゃないの」と聞くので、原告は冗談らしく「今までは、見習いだったんだ」と答えるやりとりがあった。実際の事情は、4月当初原告が朝学活を担当していたが、原告が朝の時間にN君の指導につく関係と千葉教諭が研究発表のテーマに朝学活での指導に取り組むことになった関係で主に千葉教諭が担当するようになったが、7月ころに千葉教諭の研究が終わったことと、被告が原告に対し朝の時間も含めNくんの指導をしないように要望したことを受けて、原告の手が空いたためであった。原告としては、そのような事情をそのまま生徒に伝えることこそ不適切と考え、とっさに上記のように答えたものである。しかし、被告は「見習い」発言を問題として、『ラポートのついている生徒にはこれで良いかも知しれませんが、保護者としては納得できない。高い給料を…』と手紙に書いて管理職らに苦情を伝えたとのことであった。原告はこのようなやりとりを被告が問題視すること自体に驚いた。

原告に対しては、校長『母 指導力については何か問題があるのではないかと言っている。校長が授業観察して、必要に応じて、指導します』『毎日、3時25分から3時40分まで、授業の聞き取りをする。誠意を持って答えると言う、学校側の姿勢を示します。』と伝えて来た。(甲5、10枚目、原告メモ)

く) 7月6日 管理職らと面談 通知表の名前を削除する要望があった

  管理職らによる授業観察が開始され、授業観察後に必ずしも的を得ていない指導を管理職らから受けた後、最新の被告の要望として通知表から原告の名前を削除することがあったと伝えられた。また、原告は『このようなケース対応を知っている専門家に相談したい』『現在、頭のなかが混乱していて、どうして良いか分からない』と率直に管理職らに伝えたが、管理職らは『一人通学のことで無責任だ』『子供、第一に考えてほしいのに、先生は自分のことを考えている』『仕事に対する熱意と生徒に対する愛情が通じていない』等と述べて、なお原告の責任を問うた。被告の要望が過激になっていることを知り、かつ原告の体調不良も知りながらの管理職らのこれらの態度は、原告の職場環境を保護しようとする姿勢の全く無いものだった。(甲5、15枚め、原告メモ)

け) 7月12日 副校長との面談

  7月12日の朝校長から「先生には、色々と言いたいことがある。」とのことで呼び止められたが、当日校長は出張があるため放課後に副校長のみと毎日の授業の報告のみを行った。その内容は、その日の活動内容の単なる報告であり、形式的なものだった。(甲5、17枚目、原告メモ)

こ) 7月13日 管理職らと面談 通知表から名前を削除すると言われる

  連日放課後に行われている管理職らとの面談で、校長から当日の授業観察を受けてのコメントや指導があり、その後被告の要望通りにN君の通知表(学期のまとめ)に原告の名前を入れないことを伝えられた。校長は『目的は、母親の感情的なところを和らげることが目的。他の6名には名前を入れる。』と述べ、被告の要望に例外的に沿うこと自体が目的であることが明かだった。6月中に行われた授業参観での、被告以外の原告が授業を担当する学習3班の保護者らから原告に対する評価については、苦情は無く、むしろ評価する反響があったことを報告した。(甲5、19枚目、原告メモ)

さ) 被告による監視状態

①原告が進行を担当している際廊下で泣いている女子生徒が、教室に入れずにいた場面を見て校長室に直行し、その後すぐに学校長が授業参観に来たことがあったり(当該女子生徒は、精神的に繊細なところがあるため無理に従わせるような指導は不適切だと判断し、日頃から原告は穏やかな言葉掛けを心がけていた)、②またその女子生徒は原告を「さん」付けで呼ぶ場面をみて、生徒が原告を教員として認めていないと学校長に訴えたこともあった(当該女子生徒は、状況を見て原告のことを「さん」付けで呼んだり、「先生」と呼んだり使い分けており、コミュニケーションのレベルの高い生徒だった)。③別の女子生徒が被告が廊下で聞き耳を立てていることを気にして原告に手振りで知らせて来たり、④学級の男子生徒(その母親はN君の母親と親しかった)から間接的に被告が特定の原告の行動を良く思っていないからこれこれするのは辞めた方が良いと忠告されたりすることもあり、授業中に気がつくと教室の外から中を覗いている様子を頻繁に見かけ、原告はいつどこでなにを見咎められるかわからないという気持ちがした。「Nの母は、朝と帰りに引き戸の外で立って、話を聞いている。『先生失礼します』と挨拶をする。お帰りかと思うと、まだ外で話を聞いている。」と、原告のメモにもあるが、原告からすれば、被告の行為は監視そのものであった。

 

ⅻ 小括

 ⅰ乃至ⅺに記載した被告の要望からすれば、元々要望を行う傾向が強かった被告が、一人通学指導の開始を要望したがこれ開始されないことに端を発し、男性担任としてN君の指導を担当していた原告に対し、原告の能力が低いと管理職らに訴え、被告の子どもの指導から外す他通知表から原告の名前を削除すること、原告の授業観察をして研修結果を報告することを管理職らに行わせ、さらには学級や学校からいなくなるようにしてほしいとの内容を、管理職らに直接話すか手紙を持参しあるいは電話等で繰り返し求め、その要望は原告の日常の学級指導の様子を予告なく現れて監視し生徒とのやりとりを逐一管理職に報告するやり方を伴う態様で行われたもので、内容・頻度・態様は原告の受任限度を超えるものであったと言える。

 

(2) 故意・過失

 被告は、自分の子どもへの指導に関し、前項で述べたとおり手段を問わずに要望を行ったことについては当然故意があり、または少なくとも過失があった。

 

(3)損害と因果関係

原告は、痛風で病院に通う以外、健康上の問題を有していなかったところ、N君の1人通学の問題が生じた6月上旬以降、慢性的に下痢が続くようになり、食べたものがすぐに下るようになった。そのため原告は6月以降通院し、薬をもらって服用していた(甲6)。

また、睡眠障害により、夜眠れなくなったこともあった。7月以降、原告は三楽病院の精神神経科にも通院するようになり(甲7)、抑うつ状態との診断を受けた。

原告は、ストレスで体調を崩したことにより、平成24年9月3日から同年9月28日まで病休を採らざるを得なくなった。その後も平成24年10月2日以降同年11月20日まで介護休暇を利用した時間を限定した勤務を行い、さら同年1月28日から定年退職となった平成25年3月31日までは介護休暇による休みを採って、通常の教職員としての業務に完全に戻ることは無く平成25年3月31日定年退職に至った(甲8)。

また、担任であるにもかかわらず、原告の名前はN君の成績表から削除されたままであった。

原告は、被告による受忍限度を超えた一連の行為によって精神的苦痛を被ったのであり、その損害を金銭的に評価した額は到底金2、000、000円を下らない。

 4 結語

   よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき金2,000,000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合の金員の支払いを求める。

 

 

証 拠 方 法

証拠説明書記載のとおり

附 属 書 類

1 訴状副本                                      1通

2 甲号証の写し           

                     各2通

3 証拠説明書                                    2通

4 訴訟委任状                                    1通