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平成26年(ワ)第24336号 国家賠償請求事件 岡崎克彦裁判長
平成29年(ネ)第306号 国賠法請求事件

閲覧等制限対象文書

第1回
準備的
口頭弁論 陳述
弁論準備

訴状

平成26年9月17日
東京地方裁判所 民事部 御中

原告訴訟代理人弁護士 綱取 孝治
同 弁護士 三木 優子

〒343− 埼玉県越谷市
原告 izak
〒105−0001 東京都港区虎ノ門1丁目2番29号虎ノ門産業ビル3階
綱取孝治法律事務所(送達場所)
電話 03−3591−0291
FAX 03−3502−8770
上記訴訟代理人弁護士 綱取 孝治
同 弁護士 三木 優子

〒163−8001東京都新宿区西新宿2−8−1
被告 東京都
上記代表者知事 舛添 要一
国家賠償請求事件

訴訟物の価額 2、000、000円
貼用印紙額 15、000円

第1 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金2、000、000円及びこれに対する訴状の送達の日の翌日から支払い済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第2 請求の原因
1 当事者
(1)原告は、昭和51年9月1日、東京都立学校教育職員として採用され、特別支援学校で計21年、普通学校で計10年勤務し、平成20年4月1日以降、東京都立葛飾特別支援学校(以下、「葛飾特別支援学校」という。)に勤務していたが、平成25年3月31日に退職した。本件が起きた当時、原告は同校での勤務が5年目であった。
(2)被告は、葛飾特別支援学校を設置及び管理している地方公共団体である。
(3)葛飾特別支援学校は、知的障がいのある高校生を対象とした高等部特別支援学校である。
平成24年4月から原告が退職する平成25年3月31日まで、葛岡裕(以下、「校長」という。)が同校の校長であり、平成23年4月から原告が退職する平成25年3月31日まで、中村良一(以下、「副校長」という。)が同校の副校長であった(以下校長と副校長を会わせて「管理職ら」という。)。
2 事案の概要
本件は、障がいを持つ子供が通う高等学校において、一人通学の実施を要望する保護者が、当該子供の行動の判断力やコミュニケーション力及び行動の傾向から、一人通学をさせることに危険が伴い容易に実現できないと判断した原告に対し、管理職らに原告が自分の子供を指導しないように要望したり、子供の通信簿から名前を削除するよう要望したりし、管理職らはこの保護者の要望に安易に応じた上、さらに原告に対して他の教師には行っていない管理職らによる授業参観や課題の作成、毎週の管理職らとの面談を行った結果、原告は過大なストレスを抱え、心身に不調を来たして休職等を余儀なくされ、学校という場が好きで長年教師をしてきたにも拘わらず、満足に職場へ復帰できないまま失意のうちに退職したため、学校設置者である被告に対し、下記のとおり、国家賠償法1条1項又は債務不履行責任に基づき、慰謝料としての損害賠償の支払いを求めるものである。
本来であれば、管理職らは現場の担当教師と協力して子供の一人通学の可否を具体的に検討する必要があり、学校として保護者の要望に対する根本的な問題の解決にあたるべきであるのに、本件において管理職らは、現実的根本的な解決を図ろうとせずに主張の強い保護者側に安易に同調し、現場の教師である原告に不条理な問題解決を強いて無責任な行動に出たのであり、原告が被った精神的損害は一方でない。
本件は、教育の現場で最善を模索するという本来容易でない職務の中で、管理職らが過大な要求をする保護者に適切に対応できず、その管理職らの行為によって現場の教師が働けなくなったものであって、ひいては教育を受ける子供への不利益を招き、学校そのものの機能不全に繋がる重大な問題を孕んだ事件である。
3 国家賠償責任
(1)原告の権利
使用者は、「職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務」がある。裁判例はかかる注意義務の存在を認め、「右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法七一五条により不法行為責任を負うことがある」と判断している(福岡地裁平成4年4月16日判時1426号49頁)。
本件において、原告は、働きやすい職場環境で働く利益を有していた。
(2)管理職らによる加害行為
ア 総論
本件で問題となる加害行為は、①道路横断時の左右の確認や状況に応じた判断が出来ず、飛び出し行為(興味のあるものに対する突発的な行動)があると認められる男子生徒N(以下、「N君」という。)に対し、学級担任の原告及び訴外千葉佳子教諭(以下、「千葉」という。)が一人通学実施は困難と判断していたにもかかわらず、N君の母親から管理職に対する直接の要求があったことから、管理職らが独断で一人通学指導の開始を決定し、生徒の安全への配慮や具体的方法の検討に関心を示さずその実行や責任を原告に押しつけたこと、②管理職らが、N君の母親の要求に追随し、N君の1学期の通信簿から副担任である原告の名前を消すなど、本来不必要な行為を行ったこと、③N君の母親に原告に対する指導を行っていると説明するため、管理職らが原告の授業観察を頻繁に行い、本件には関係のない課題(教材の作成)を与え、報告名目で週1回の面談を行うなど、原告に本来不必要な行為を強いたこと、である。以下で詳述する。
イ 入学以来のN君の状況について
平成24年4月、原告は1年A組の副担任であり、訴外千葉佳子が同学級の担任であった。
同年4月、原告が副担任を務める1年A組に、N君が入学した。N君は発語がなく、コミュニケーションが難しい生徒である他、興味のある対象に向かって突発的に走り出す等の行為が見られ、色紙の下書きのある文字をなぞることができない(手と目の協応ができない)という発達状況であり、本来であれば、重度・重複学級(障がいが重度であるか、複数の障がいが重複している生徒の学級、生徒3名に対して担任2名を配置し、きめ細やかな対応を行う)が適すると思われたが、同学級の定員数に上限があったこと、入学時の保護者面談による保護者の報告で、それほど重度と受け取れない報告がなされていたこと等から、原告が担当する比較的コミュニケーションが出来る生徒が多く所属する学級に配属されたようだった。また能力別に受ける授業では、N君は重度・重複学級に所属する生徒らのクラスに所属していた。
なお学級では、N君は更衣・トイレの見守りが必要であることから、女性である千葉ではなく男性である原告がN君の身辺の世話をする担当であった。
またN君の母親は、入学式当初から、担任らに対しほぼ毎日、かなり長文の文章を記載して、連絡を行ってきていた。葛飾特別支援学校では生徒による記載を主目的とする連絡帳があったが、N君の母親の記載量ではその書式は明らかにスペースが不足している様子だったので、原告は以前の学校でどうしていたかを訪ね、N君の母親が中学時代に使っていた連絡帳の書式を参考に新たに用紙を作成し、便宜を図ることにしていた。
ウ N君の一人通学について
(ア)学校側の一人通学の運用について
一人通学指導とは、障がいを持った生徒達が、1人で通学するための取り組みであり、家庭と学校が連携し、毎日の指導を積み重ねることで行う(甲1)。一人通学できることは、将来の自立を目指すうえで重要な事項であり、就職活動に直結する課題であるため、保護者の関心も高い。
一人通学を実現する生徒の多くは、まず保護者が付き添い通学を行い、その後問題が無いか学校側が数回確認し、学校が安全と判断して一人通学を承認する。保護者の付き添い通学から段階が必要な場合には、教師が生徒を後ろから見守る等して安全に配慮することもあったが、校門の外まで付いていくケースは期間限定であり例外的であった。
(イ)原告ら学級担任へのN君の保護者による一人通学指導の要望
鄯)家庭訪問時に初めて一人通学指導開始の要望があった
平成24年5月上旬、原告と千葉がN君の入学後初めての家庭訪問のためにN君宅を訪れた際、N君の母親は、N君の一人通学を始めたい旨を述べた。
これに対して千葉は、校舎からグラウンドに行く際に道路を横断する必要があるが、N君は、左右の確認ができていないことを説明し、「左右が確認できるようになってからその話はしましょう」と伝えた。
原告はこのとき、千葉の意見を同意見だと思いながら黙って聞いていた。千葉が見解を伝えたとき、N君の母親は格別の意見や異論を述べなかったので、原告はN君の母親が千葉の意見に納得している様子だと受け止めていた。
そしてこの日の帰り途にかけて、原告と千葉は、改めてN君の母親の一人通学の要望に対し、現状でのN君の一人通学は困難であると話し合った。
N君の母親の要望は、N君と同じクラスの生徒の1人が5月に入ってから一人通学の練習を開始していたことを受けてのものと思われたが、同生徒は、①N君と発達状況が異なり、何かあったときに携帯のメールを送信して助けを求めることが出来、②同生徒の通学路のうち、交通量の多い所には交通補導員が立っている、といった事情があり、多くの生徒の一人通学を見守ってきた学校側としても、段階を踏めば一人通学が実現できるという判断であり、N君の場合とは状況が異なっていた。
鄱)N君を担当する原告への直接の要望
ところが平成24年5月14日、N君の母親は原告に対し、一人通学をさせたい旨を連絡帳にて伝えて来た(甲3の1)。
原告は、改めて一人通学の可否を検討したが、日々の学級活動を通じてN君と接する中で、N君には、①土を見るとパッと駆けだしていって手で土を撒き上げて遊んだり、興味関心のある物を見つけると突然駆け出したりする行為があり、周囲の状況を考慮しない危険がある、②校舎からグラウンドに行く際に、道路を横断する必要があるが、左右の確認ができていない、③靴の左右をよく間違えることから、道路上の「右を歩く」という意味を理解できていない可能性がある、④発語がなく、トイレに行きたい時も、腹部に手を当てて示す状態なので、「赤で止まる」「青で渡る」等、安全性に関する注意事項について理解しているか確認できない、といった事情が存在し、N君が一人通学を行うことは現段階では困難であり、そのための指導が相当長期間に及び学校側の体制も整っておらず個人で行うのは困難と考えた。
原告は、N君の母親が連絡帳に一人通学についての質問を記載してきた朝、更衣室前で直接会って理由を説明した。即ち、2、3週間見て手が離せる状況なら個人的に一人通学指導の付添いが出来るが、それ以上は負担が重く困難であること、N君が1人で通学出来るようになる見通しが立たないことを口頭で伝えた。N君の母親は、この時もその場では格別の意見や異論を唱えず、原告の見解を理解した様子であった。
(ウ)管理職らへのN君の保護者による直接の要望
鄯)N君の母親が校長室を頻繁に訪問するようになった
体育祭の練習中であった5月頃、N君の母親は校長室を突然訪問し、「一人通学のパンフレット(甲1)があるのに、何故この学校で一人通学ができないのか」と管理職らに対し直接詰問したとのことで、後で原告が校長室に呼ばれ、管理職らに対しN君の状況や一人通学指導の可否について説明したことがあった。
その後、N君の母親は足繁く校長室を訪れ、口頭又は手紙により、一人通学指導を認めなかったことに対して苦情を述べるとともに、原告を辞めさせるよう要求しはじめた。
校長及び副校長によれば、N君の母親の要求する内容は、①学校として出来ないこと(一人通学)をマニュアルに書くな、②原告をN君の担任から外してほしいし、それでは足りないから学校からいないようにさせてくれ等の内容であった(甲2の1)。
鄱)当初の管理職らの判断
N君の母親の要望に対し、当初の管理職らの判断はN君の一人通学指導を開始しない内容だった。
N君の障がいの状況を把握しているのは、学級担任である千葉、原告、学年主任等の直接N君に指導する機会のある現場の教師らであり管理職らは直接N君の状況を知らない体制であった。
その中で校長も当初は、N君の現状について原告らの報告を受け、N君に一人通学指導を開始しない考えでいた。校長はN君の母親に対し、「N君が危険なだけでなく事故が起きれば相手に怪我をさせることもあるのだからその相手も困る」と説明し、一人通学を思い留まるように説得したと聞いている。
(エ)管理職らによる一人通学指導開始の決定
鄯)N君の母親のその後の行動
平成24年6月6日には、N君の母親は、今度は原告ではなく相担任の千葉に宛てて、学校の協力がなくても翌日から一人通学を行う旨を書面にて伝えて来た。これは原告からも管理職らからも一人通学指導を開始できないと伝えられ、原告ではなく千葉に充ててのみ交渉をする意図だったと見られる。
この間N君の母親は、学級の様子を頻繁に黙って覗き見るなどしており、これに気付いた原告は非常に驚いたがそれ自体を問題とせず、但し学校に来て学級のN君以外の生徒(発達障がいがあるがコミュニケーション力が比較的高く、思春期特有の難しい精神状態を持ったお子さん)にN君の母親がN君への対応につき原告に対する要求を吹き込み当該生徒から原告に伝言させる等したことについては、入学以降当該生徒と築いた信頼関係を壊す身勝手な行為であり、生徒を巻き添えにするわけにいかず、対応に苦慮した。
原告は正確には把握していないが、N君の母親は学校に来た日はほぼ必ず校長室にも訪問しており、管理職らに対する要望も続けている様子だった(甲2の2)。
鄱)管理職らによるN君の一人通学指導開始の決定
すると、平成24年7月末頃、管理職らは「N君の一人通学指導を行うことにしたので、一人通学の指導計画を作成するように」、と原告に指示してきた。
学校側の行う一人通学指導は通常であれば1〜2週間で終わるところ、重度の発達障害を有するN君の場合、指導終了の見通しが全く立たず、1年以上かかっても一人通学が実現しないことも考えられ、校長の指示は、終了の見通しが全く立たない一人通学指導を、原告の負担と責任で行うことを意味していた。
副校長からはこのとき、N君の母親が、「原告は部活指導をしていないのだから、通学指導くらいすべきである」旨の発言をしていると原告に伝え、原告が一人通学指導を引き受けるよう暗に勧めてきた。
鄴)N君の中学時代の資料の取り寄せができなかったこと
原告は、決定された以上はこれを行う前提で、計画案を作ることとした。
校長がN君の一人通学指導を決めた背景には、N君が中学時代に一人通学の練習をしていたとN君の母親が言っていることも関係していると思われたため、原告は、N君の通っていた中学校での勤務経験もある副校長を通じ、N君が在籍していた墨田特別支援学校中学部の作成した一人通学の計画書取り寄せを申し入れた。
しかし、合理的と考えられる計画書の取り寄せについても副校長は何ら対応せず、その副校長の対応を不審に思い原告が理由を尋ねても副校長は全く答えず結局資料は何も得られなかった。
このような副校長の対応は、管理職らが原告に恣意的に無理を強いる意図があるのかと疑われる程だった。
鄽)事故があった場合の責任の所在について
平成24年6月10日、N君の母親は、自分の判断でN君の一人通学の練習を開始していたところ、早くも同年6月14日、N君は交通事故に遭いそうになり、間一髪で事故を免れたということがあったとの報告が為された。この出来事に対しN君の母親の受け止め方は、「N君が車の運転手よりも早く気付き立ち止まったことから今後の安心材料になった」というものだったが、その状況自体は危険と隣り合わせであることを示す内容であった(甲3の2)。
この出来事により、原告は、N君が事故に巻き込まれる可能性は小さくないと改めて感じた。
一人通学指導は、厳密には教師の勤務時間中に行われるものではなく、事実上勤務時間外にボランティアで行う現状であったことから、仮に指導中に事故が起きた場合、教師が全責任を負わされることも危惧された。校長らは、危険の伴うN君の一人通学の指導を強いるものの、仮に事故が起きた場合の責任の所在について原告が文書での確認を求めたにも拘わらずこれに応じなかった。時間外の勤務をする時は、文書で明示することとなっていたが、指導をする場合の危機管理体制作りは全く行っていなかった。
酈)小括
管理職の判断で一人通学が決められたにも拘わらず、校長及び副校長は、具体的な案についての検討を真に行う姿勢はなく、原告に具体的な計画案に有益な情報を提供したり、N君の安全を確保するための配慮をみせたりすることもなかった。
このことは、本件につき原告と管理職らとの間の大きな摩擦となった上、結局原告がN君の一人通学指導をするには至らず原告とN君の母親との関係はさらに悪化し(甲2の3)、原告が校長ら及びN君の母親から受けるストレスは過大なものとなり、後述するように、下痢が止まらなくなったほか、精神科への通院を余儀なくされた。
以上のように、N君の一人通学指導に関し校長及び副校長が現場の教員との相談なく保護者の要望に折れる形で一人通学指導の開始を決定し、原告にその計画作成を命じたものの、中学時代の指導状態の確認も行わせず、N君の危険を認識しながら責任の所在も明らかにしなかった等の対応は、原告の働きやすい職場環境で働く利益を侵害する、違法な加害行為であった。
エ エスカレートするN君の母親の要求と、校長らの不適切な対応
(ア)原告個人を攻撃対象としたN君の母親の要望
鄯)平成24年6月28日前後、N君の母親が校長に対し、校外学習時に原告がN君の指導をしないで欲しいと要望した。
これを受けて校長は原告に対し、上野動物園での校外学習時に、N君の指導をしないように指示した。
鄱)また、同年7月、N君の母親が校長に対し、N君は原告から見てもらっていないので、原告はN君の担任ではないのだから、原告の名前を1学期の通知表に入れないで欲しいと要望した(甲2の3、甲2の4)。
これを受けて校長はN君の通知表に原告が署名押印しないよう指示し、原告の署名押印がないものが作成された。
通知表は、本来、学級の担任である千葉と副担任である原告が連名で作成して判を押すことになっており、上記のような取扱は極めて異例だった。
鄴)同年7月4日、N君の母親が校長室に手紙を持参し、原告の指導能力に疑問があるとして研修履歴の開示を求めた。
これに対し、校長らは、N君の母親に原告の過去の研修履歴を開示した。
(イ)管理職らによる授業観察が開始されたこと
同年7月、原告が行った朝学活に関する内容に疑問があるとして、N君の母親は校長に対し、原告に指導力がない、教育委員会に対処してもらう旨を告げた。そこで校長は、原告の授業の授業観察を行うので、教育委員会に行く必要はないとN保護者をなだめた。
それ以降、校長、副校長が頻繁に原告の教室に入ってきて授業を見るようになった。また、放課後に、原告に授業について報告させ、校長、副校長がコメントするようになった。
他の教員には、このようなことは行われていなかったし、かつて行われたこともなかったと聞いている。
(ウ)夏休み中の教材作成及び管理職らとの毎週の面談
鄯)教材の作成
平成24年7月25日、原告は校長室に呼び出され、管理職らと面談した。
校長は、「(N君の母親への)信頼を回復するための努力をする必要がある」、「教材研究を進めてくださいと言っている。Nさんに理解していただけるために」、「夏休み中に、先生がしっかりとやっていることを示すために、校長は指導する必要がある」、「Nさんは、先生の専門性を問うている、それで教材研究をして(証明を)」、「Nさんに説明するためにやっている」等と述べ、原告に、N君の母親への信頼回復を目的とする教材作成を命じた(甲4の1)。
教材の内容は2学期の学習用教材全般であり、本件の根本的な問題である一人通学の可否やN君の母親の考え方と学校側としてのより良い対応等といった確信からは、かなり離れた内容であって、あくまでも形式的な課題であると受け取られた。
鄱)毎週の管理職との面談
また、管理職らは上記教材作成の進捗状況の報告が必要であるとして、毎週木曜日の午前中、校長及び副校長との面談を命じた。
面談の名目は教材作成の進捗状況の報告であったが、その内実は、N君の母親の信頼回復に関するものであり、管理職らとしても全てN君の母親の要求通りに行動すること以外N君の母親の納得を得る手段は無く、また原告が一人通学指導に関しそれに応じることには時間的・体力的な限界があるとわかっていながら、一方的に暗にそれを求める面談内容が繰り返された。
例えば、平成24年8月7日、原告は校長室にて校長及び副校長と面談したときの内容は以下である。
副校長は原告に対し、「信頼を失った原因は何だと思っているか」「なぜNさんの信頼が壊れたのか、先生の考えを聞かせて欲しい」「信頼を回復できるようにする気はあるのか」と問い詰めた。
これに対し原告は、N君の母親が校長に対して3、4通の手紙を書いていたこと、口頭で度々要望を行っていたことは校長らから聞いていたが、N君の母親が具体的にどのようなことを言っているのか知らなかったので、「具体的な内容とその根拠が分からないので、対応が出来ない」「N君のお母さんが、指導力がないと言っている根拠が分からない」と伝え、「N君のお母さんからの手紙を見せて欲しい」等と依頼したが、「校長宛なので、手紙は見せられない」と一蹴された。
このとき副校長は「指導上の問題があったということではない★・・・・・・・・・・・・・・・・・・・★、教師としての熱意が」等と抽象的なことを述べ、指導上の問題ではないと明言しながら何が問題となっているのかを明らかにすることなく、「問題を解決するために」というプリントを原告に手渡し、次回の面談までにまとめてくるように指示した。
そのプリントの内容は、「1.保護者からの信頼を失った原因は何か。」、「2.保護者からの信頼を回復するためには何をしなければならないか」というものだった(宿題1、甲5の1、甲4の2)。
また、8月21日の面談(甲4の6)までに、もう1通プリントを渡されており、その内容も、「1.保護者からの信頼を失った原因について、管理職と見解が異なる点はどこか」「2.保護者からの信頼を回復するための具体策を示せ」といったものであった(宿題2、甲5の2、甲4の7)。
さらにその後、8月28日に面談(甲4の9)までに、3枚目のプリントが渡されており、その設題は宿題1の内容と全く同じであって、管理職らに対する望ましい回答が得られるまで同じ質問を繰り返す趣旨と受け取られた(甲5の3)。
上記プリントの質問の立て方からも、N君に対する教育内容の検討をするのではなく、N君の母親の「信頼」を最重要問題としていることが明らかである。校長らは、学校全体でN君の母親の要望に対処していくのではなく、N君の母親の攻撃対象である原告に漠然と改善を命じ、その対応はN君の母親に言われるがまま、の状態であった。
またこの面談で、管理職らは、管理職の立場からの意見を明らかにしてN君の母親と原告の立場を調整する意図は全くなく、「N君の母親からの信頼を回復するための」具体的な事態の解決を図る姿勢すらも皆無であった。このような面談の時間は原告に重い負担となり、原告は校長に対し直接「拷問タイムだ」と伝え、抗議をしていた(甲4の3)。
(エ)小括
本来であれば、生徒に関し困難な課題(本件では一人通学)がある場合には、学校が一丸となって対処していくことが望ましいが、管理職らは、生徒の状況についての判断よりも、保護者の主張をなだめることばかりを優先してその要望に応じ、その実現を原告が時間的体力的に対応できないと訴えているにも拘わらず現場の教師である原告に押しつけた。さらに、保護者の不興を買った原告に対し、保護者をなだめるためのポーズともとれる本件とは関係の無い授業参観や課題作成、問題の解決に結びつかず管理職に対し望ましい態度を求められる無益な面談を行ってきた。
そこには何らの真の教育上の配慮はなく、学校と保護者との関係がうまくいかないこと自体を最優先に問題視していると受け取れる「事なかれ主義」が見えると言わざるを得ない。
原告は、校長らが授業を見に来ることに多大なストレスを感じるとともに、校長らと行われる毎週の面談を拷問のように感じていた。
上述した校長及び副校長の行為は、違法な加害行為にあたる。
(3)損害
原告は、痛風で病院に通う以外、健康上の問題を有していなかったところ、Nの1人通学の問題が生じた6月上旬以降、慢性的に下痢が続くようになり、食べたものがすぐに下るようになった。そのため原告は6月以降通院し、薬をもらって服用していた(甲6)。
また、睡眠障害により、夜眠れなくなったこともあった。7月以降、原告は三楽病院の精神神経科にも通院するようになり(甲7)、抑うつ状態との診断を受けた。
原告は、ストレスで体調を崩したことにより、平成24年9月3日から同年9月28日まで病休を採らざるを得なくなった。その後も平成24年10月2日以降同年11月20日まで介護休暇を利用した時間を限定した勤務を行い、さら同年1月28日から定年退職となった平成25年3月31日までは介護休暇による休みを採って、ほとんど通常の教職員としての業務に戻ること無く定年退職に至った(甲8)。
原告は、管理職らによる一連の行為によって精神的苦痛を被ったのであり、その損害を金銭に評価した額は到底金2、000、000円を下らない。
(4)因果関係
原告のストレスは、N君の母親が行った原告個人への攻撃に加え、これに追随した管理職らの不適切な対応が核心であり、管理職らの行為と被告の損害との間に因果関係が認められる。
(5)公権力の行使
前述した管理職らの行為は、同人らの職務の一環として行われ、「公権力の行使」という要件も満たしている。
(6)故意・過失
管理職らの行為が行為又は過失に基づくものであることは言うまでもない。
(7)以上から、被告は原告に対し、国家賠償法1条1項の損害賠償責任に基づき原告に生じた損害を賠償する義務を負う。
4 債務不履行
被告は、原告の雇用者であったのであり、労働契約法上の付随義務として、「労務の提供に関して良好な職場環境の維持に配慮すべき義務」を負っていたところ、上述のように、被告はかかる注意義務を怠り、その結果、被告に前記(3)に記載の損害が発生した。
以上から、被告は原告に対し、雇用契約に付随する安全配慮義務違反に基づき、原告に生じた損害を賠償する義務を負う。
第3 結論
よって、原告は被告に対し、国家賠償法1条1項又は債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、金2、000、000円とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第4 求釈明
本件と関連する事実として、以下の点の釈明を求める。
原告本人が開示を受けた平成23年度の原告に対する職員定期評価書と、代理人が開示を求めて提供された同評価書の内容が異なり、どちらが正確なものであるか不明であるので、被告は、①甲9の1及び2のどちらが正しい業績評価であるのか、また②内容が異なる2枚の業務評価書が作成された経緯につき明らかにされたい。
甲9の1及び2はいずれも平成24年3月31日を基準日とする原告の評価であるが、原告が開示した甲9の1は、各評価が上から「BBCC」、総合評価「B」であるのに対し、代理人が開示を受けた甲9の2は、上から「BCCC」、総合評価「B」となっている。
本件が直前の上記業務評価書の内容は、原告に対するどのような職務上の評価が為されていたかが今後本件の中で重要な事情となりうることから、釈明が必須であると考えられる。

証拠方法
証拠説明書記載のとおり
附属書類
1 訴状副本 1通
2 甲号証の写し 各2通
3 証拠説明書 2通
4 訴訟委任状 1通



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